2008年4月4日金曜日

Medipolis GMPについて

メディポリスGMPはオウルの地域開発プロジェクトとしてスタートしたものであるが,CEOのPirkko Suhonen氏によると,「大変巨額の投資が行われているが,まだ結論を出せる段階にはない」という.

 ヨーロッパでは,バイオテクノロジーというとバイオファーマのことを指す場合が多い.医薬品開発には長い時間と大きな資金が必要であり,すべてのプロジェクトが成功するわけではない.オウルにおけるバイオ分野はまだ始まったばかりだ.

 オウル大学のPeter Neubauer教授はこれに補足を加えている.「フィンランドには大規模な製薬会社が無いので,多くの化学会社は製紙産業との関わりが強い.対して電子工学は様々なアプリケーション分野と結びついてオートメーション技術や計測機器技術といった適用分野が発展しており,フィンランドが市場に提供する製品の幅を広げてきた.」

 これについて,ノキアは成功してきたが,エレクトロニクスの周辺科学としてバイオがあるというのがあまり認識されていないと考えてよいのかと質問したところ,Suhonen氏は「バイオテクノロジーとエレクトロニクスはオーバーラップする部分もあるのでオウルが持つ高いレベルの電子工学という利点を生かすにはどうすればよいのかを検討している最中だ.

 電子工学の立場から見ればバイオテクノロジーはアプリケーションの対象だ.バイオテクノロジーの分野で必要とされているソフトウェアや機械の開発に威力を発揮することが期待されている」と述べている.

 そもそも,Medipolis GMP設立の目的は,バイオ分野の小企業に対して,クリーンルームへのアクセスを安価で提供するというもので,初期の投資はオウル市によって行われた.

 医薬品開発には非常に高度な施設や巨額の資金が必要であり,この分野の企業を立ち上げるにはその地域自体に潜在的能力や企業の集積が求められるが,インフラとしてこのような施設も不可欠なのだという.

 しかし,Medipolis GMPがスタートしてすぐに,「我々はオウルだけで活動を行うのでは不十分だという認識を持つようになった.そこで活動の焦点を地域開発から転換した.現在は独立した私企業となっており,私を含むマネージメントチームがオーナーとなっている」.これがMedipolisとMedipolisGMP設立の経緯となっている.

 Medipolis GMPはその意味で公営企業に近いが,大学教育とも非常に密な関係を保っている.その一例がResearcher
Entrepreneuership Programである.

 Researcher Entrepreneuership
Programは博士課程の学生やポスドクが参加する起業家向けセミナーである.プログラムには大きく分けて二つのコースがある.一つはより一般的なテーマを扱うもので,講義やトレーニングが中心であり,オウル大学から多くの学生が参加している.もう一つは個別の専門領域に関わるテーマを扱うコースで,小グループが自らテーマを決定してビジネスプランを策定し,ファンドを得るための計画を立てるというものである.

 このようなプログラムのほかにも,オウル大学やフィンランドアカデミーが同様のビジネスプログラムを持っている.

 このプログラムの目的は二つあるとSuhonen氏は言う.「一つは起業家の育成であり,もう一つはビジネスの基礎的な能力を身につけさせるというものだ.そうすれば彼らには起業するか労働市場に労働力として参入するかという選択肢が生まれることなる」.

 このような起業家育成プログラムが進んでいる一方で,この地方のバイオ関連企業の数についてはどのように評価するか?という問に対してSuhonen氏は,

 「もっと増えなければならない.バイオの分野だけでなく,一般的に言ってフィンランド人は起業にあまり熱心ではないのだが,オウルでバイオ分野の起業が進まない一つの理由は,情報技術と電子工学の成功を目の当たりにしているからだろう.この領域はビジネスをはじめるのが容易だ.それに比べてバイオの分野は起業に多額の資金が必要であり,安価で利用できる実験室が必要である.

 ソフトウェア開発を行うのであればコンピュータが自宅にあればよいが,自宅に実験室を作るわけにはいかないのだ.

 現在はバイオテクノロジーといっても医薬品開発が大部分を占めているが,我々が培ってきたノウハウはバイオ関連の様々な分野に適応可能だ」という.

 オウルだけでなく,フィンランドには5箇所のバイオテクノロジーの中心地があるが,これらの間のコラボレーションは活発なのかという問に対しては,

 「活発に行われている.バイオテクノロジーセンターと協働する多くの国レベルの組織が存在している.Finnish Bio-industry
Association(フィンランドバイオ産業協会)はそのためのプラットフォームの一つであるし,ファーマクラスターのような産業クラスターもある.TEKELのようなプラットフォームも有効に機能している.

 また,バイオテクノロジーに関しては4つのクラスターがある.ファーマクラスター,診断技術クラスター,バイオマテリアル,産業バイオテクノロジーフォーラムだ」と述べている.

 オウルは地域産業クラスターの構築に成功しているとはいえ,北極圏の人口12万の小都市である.首都から800kmも離れた彼の地で外資系企業も含めた産業クラスターが成立し,優れた技術者や科学者が集まりえた要因には様々な解釈があるだろう.

 この点についてNeubauer教授は,「オウルは50年代・60年代から「どのようにオウルに人を呼び込めばよいか」を検討し,様々な策を講じてきた.その一例は,生活コストだ.たとえばミュンヘンで良い大学に属して,研究や教育に参加すればそこにすんでいるだけで非常に高いコストを負担することになるが,オウルでは生活のためのコストは非常に安価でしかも良質だ.人を惹きつけるには大変重要な要素だろう」と述べる.

 これに対してSuhonen氏は,「自然環境のようにコストに換えがたい優れた環境というものもある.社会環境という意味では,優れた公共交通システムもあるし,空港からはヘルシンキだけでなく,ストックホルムやコペンハーゲンに直接飛ぶこともできる.その意味で,われわれはヘルシンキから「独立」しているといえる.

 海外との直行便の就航はオウルから世界に出て行く際にも大変重要であるが,逆に海外からオウルへの来訪が増えるという部分も重要だ.国際的なビジネス機会を確保するという点で大きな意味を持っている」と加えている.

 このSuhonen氏の指摘は先のHopia氏による国際化の説明と同様に,オウルが高い「自立心」を持っていることを示している.極北にあって,その国の首都ヘルシンキに依存しないという選択をはかりつつある様が見えてくる.