BioTurkuはフィンランドのバイオテクノロジーの分野の先頭を行くクラスターだ.
約80の民間企業と20程の組織があり,全体で約100の様々なアクターが活動していおり,この地域に,フィンランドにおける製薬・診断分野の企業の約半数が集まっている.BioTurkuの主たるビジネスエリアは医薬品開発,診察技術,バイオマテリアル,機能性食品といった分野であるが,1999年,トゥルク・バイオバレーが創業した際,BioTurkuはこの地域がどのような分野で優れているかということについて,企業や大学その他の組織から多くの専門家が参加して戦略を策定している.
この戦略においてBioTurkuはバイオマテリアル・医薬品開発・診察技術の3つのエリアをフォーカスエリアとすることを決定したのだが,2004年に,この戦略はアップデートされ,医薬品開発のような大きすぎるテーマについては見直しが図られた.
現在は,トゥルク地域が優位にあるエリアをさらに特定するため,「インディケーションエリア」と呼ばれる範囲を特定されている①ホルモン病と癌,②炎症と伝染病,③中枢神経系に関わる病,④バイオマテリアルを含む再生医療用の薬という分野である.
現在はこの戦略に沿って,企業などに提供するための情報収集・整備を行っている段階にある.
Bio Valley
Ltdはトゥルク地域のバイオクラスター開発全般に対して責任を負う企業で,企業とリサーチユニットを結びつけるコーディネートプログラムや,BioTurkuの宣伝・プロモーション,バイオ企業に対するインキュベーションサービスや実験室提供,企業や研究グループのニーズに合わせた施設設備提供,国のプロジェクトであるPharma
ClusterやBiomaterial Clusterの運営,国外とのネットワークであるScanBaltネットワークやEFB(ヨーロッパ・バイオテクノロジー連合)のフィンランドにおける窓口などの役割を通じて,BioTurkuにおけるバイオビジネスを拡大していくことがタスクとなっている.
このタスクを実現するため,Turku Bio Valley Ltdは3つのパートに分かれた戦略行動計画を打ち出している.
一つ目は地域開発プログラムである.このプログラムは高い可能性を秘めたプロジェクトを探し出したり創出し,スタートアップ企業を支援し,研究基盤を開発するためのものとなっている.現在,企業と科学者集団によって4つの開発プログラムが進行中である.また,地域開発プログラムでは,スピンアウトを促進するため,同社と先端的なバイオ企業との協力関係を深めている.
これらに加えて,バイオとICTのクラスターシナジーを強化する試みも行っている.これは近年提案されている新たなビジネスアイデアの多くはバイオとICTの組み合わせのものであるからだ.特にライフサイエンスの分野でICTの活用が進んでいる.患者の行動の制約を取り除くために様々なICT技術の応用が試みられている.この分野のビジネス機会は今後も大きくなっていくと予測しているようだ.
二つ目はマーケティングに関するものである.パートナーシップを構築し,BioTurkuに多くの国際的な投資や企業を呼び込むといった活動を進めている.マーケティングのための資料を準備し,B-to-Bの機会拡大を狙った様々な企画を立てている.国際的なバイオテクノロジー企業,バイオファーマ企業との会議や,世界中にあるバイオパークとの協力関係の構築,国際的な投資化とのコンタクト確保といった形で,世界を視野に置いたマーケティング活動を行っている.
三つ目はサービスビジネスである.おもに施設の提供サービスを指している.つまり,利用者であるバイオ企業のニーズに応じた施設の提供,バイオインキュベーターやバイオラボの提供サービスがサービスビジネスの中身である.
トゥルクにおけるバイオクラスターはフィンランド全土におけるバイオ関連企業の約半数が集積しているところからも,一定の成果を挙げる素地が整いつつあるように見える.この点について,これまでの活動をどのように評価するかを伺ったところ,プロジェクトマネージャーのHanna
Halme氏から以下のような返答を得た.
「BioTurkuのコミュニティーは十分に大きい.ここでは十分満足できる規模の活動が行われているが,同時に適度な小ささであり,人々は頻繁に直接会う機会を持つことができる.他のバイオパークの事例を見ると,一つの都市内にあってもその中で地理的に離れた場所に施設が散在している場合がある.
もちろんe-mailなどのコミュニケーション手段もあるが,face-to-faceのコンタクトは大変重要なのだ.組織の方針を決めるための会議やシンポジウムなどの公式なミーティング機会だけでなく,一緒にコーヒーを飲んだり,偶然ビルの廊下で出会ったりといった,組織化されていないface-to-faceのコミュニケーション機会にも眼を向けなければならない.大きさという意味でも小ささという意味でも非常に効果的なサイズで仕事してきたと考えている.
我々は様々なことなるレベルのネットワークを活用するという文化を持っているし,様々なサポートツールも創造してきた.さらに共同戦略も持っている.この戦略は多くのアクターが参加して作られたもので,地域の多くのアクターが合意したものだ.この合意もまた重要な要素だろう.」
起業支援というサイエンスパークにとってもっとも重要な役割についてであるが,トゥルク・サイエンスパークで起業した企業数は136社.3年から4年のインキュベーターでの活動を終え,インキュベーターを離れた後の生き残り率(サバイバル・レート)は85%となっている(フィンランドの一般的な企業のサバイバル・レートは50%である).
25社が現在,ベンチャーキャピタルやその他のビジネスエンジェルから支援を受けているが,100社のスタートアップ企業があることを考慮するならば,それほど大きな割合であるとはいえない.サイエンスパーク内の企業は,人的規模でいえば5人程度あるいはそれ以下のサイズというのが典型的である.
Turku Bio Valley
Ltdではこれらの起業を支援するため,様々な専門サービスを行っている.様々な最新のデータベースの提供や専門家による無料のコンサルティングサービス,オフィスや実験室スペースの貸し出し,実験機器洗浄サービスなどがあり,起業家は自分のビジネスに専念できる.また,インキュベーターの外にある施設も利用できるよう大学などとの連携をとっている.例えば医薬品の開発を行う際に行われる様々なテストをクリアするために,外部の施設を利用して様々なプレテストを行わなければならないからだ.
また,大学や金融機関へとのコネクションも入居企業にとっては有効なサービスとなっていると評価しているようだ.ベンチャーキャピタルとのコンタクトもあり,どのような企業があるのか,どのようなビジネス機会があるのかという情報提供をベンチャーキャピタリストに対して行っている.
カウンセリングやフォローアップもインキュベーターのサービスに含まれている.もちろんその前の段階である戦略の策定にはTurku Bio Valley
Ltdも非常に多くの時間を割くが,実践段階に移ってみると,資金調達のための大変きめ細かいカウンセリングが必要になる.
バイオ企業にとっては資金調達は簡単なことではない.なぜならスタートアップ以前の段階から多くの資金が必要だからだ.ICT分野であれば,コンピュータとネットワーク程度で済むが,バイオで新たな素材が必要だとなるとそれはそれほど簡単なことではないからだ.
次にマーケティングサービスについてだが,大学からの起業を想定した場合,起業者はその技術に関してはエキスパートであってもマーケティングに関しては素人であるケースがほとんどであるため,ビジネスの専門家からの適切なアドバイスが必要である.
Turku Bio Valley
Ltdは起業家向けのマーケティング,セールスに関する教育コースも持っている.バイオテクノロジー分野のスタートアップ企業に向けたファイナンスやIPRのコースなどがあるが,これは1988年から始まっている.ほとんど毎日何らかのコースが開かれているが,バイオ分野には「バイオ・ケース」というクローズドの起業家向けセミナーがある.
「バイオ・ケース」は大企業から人を呼び,その企業の事例について紹介するというところから始まるがそれが終わると,なぜその方法で成功したのか,他の方法では駄目なのかといったを20人程度の参加者が徹底的に議論を行うものである.
資金調達やIPRに関連する事項が話題に上ったが,ここで注意したいのはTurku Bio Valley
Ltd自身がファンディングプログラムを持っているわけではないということだ.
Turku Bio Valley
Ltdにも予算はあるがファンディングのための資金はTEKESなどが主たる供給者となっており,この点ではバイオ・ケースは教育プログラムであると同時に「経験の交換の機会」として機能しているといえる.このような起業家教育のための機会としては,国レベルで開催されるベンチャー・カップと呼ばれるものもある.