2008年4月4日金曜日

トゥルク大学

 次に,トゥルク・サイエンスパークの主要なアクターに対するインタビューを順に紹介していく.トゥルク大学での話題はトゥルク大学とトゥルク・サイエンスパークの関係についてであった.大学設立の経緯,サイエンスパークの意味,TLOにおける課題などについての議論も行った.

 トゥルクでは1917年にスウェーデン系のオーボ大学が設立,1920年にフィンランド系のトゥルク大学が開学した.当時はスウェーデン系は富裕層が多く,フィンランド系は比較的貧しい人が多かったため,トゥルク大学の最初のタスクはフィンランド語を話す公務員を養成することにあった.このような認識があったため,トゥルク大学にとっては積極的に地域開発に尽くすという発想は,気乗りのしないものとなっていた.トゥルク大学は国のために尽くすのが最重要タスクだと考えられていたからである.

 1980年代後半からは地域における他者との協力関係は拡大していった.

 現在,トゥルク大学には18000人の学生と2800人のスタッフがおり,6つの学部があるが,技術系の学部と経済経営系の学部は無い(ICTの学科はあるが,学部ではない).この状況を補うため,技術系の学部を擁するオーボ大学と経済経営系のトゥルク経済大学と緊密なコラボレーションを保っている.

 トゥルク大学にとってのサイエンスパーク.についてであるが,トゥルクのサイエンスパークは3つの大学のテクノロジーセンター,ハイテク企業,サービス企業,ポリテクニークと大学病院が構築するネットワークである.その目的は,協働し,シナジーを利用して付加価値を創出することにある.

 また,トゥルクサイエンスパークの強みは「歩いていける距離」に様々な資源が集まっていることである.これはサイエンスパークの中で働く人々が,頻繁に顔をあわせる機会を持っているということである.意図の有無,公式非公式を問わず,face-to-faceのコンタクトの機会を確保することはおそらくどのような戦略よりも重要であろう.なぜなら良いアイデアというものは,往々にしてことなるバックグラウンドを持つ人同士がインフォーマルな議論を行うことで生まれてくるからだ.

 大学のメインタスクは基礎研究と研究者教育,そして基礎研究と深く結びついた応用研究がある.しかし,大学法によってフィンランドの大学はパテントやライセンスを直接扱うことができない.

 市がメインオーナーであるサイエンスパークは製品開発やインキュベーターシステム,アクセレレイターシステムを通じて企業との協力を取りまとめる役割を果たしている.

 しかしここに初期段階の技術の移転に関して重大な問題がある.昔は大学が所有するTLO企業があったが,それは倒産してしまった.現在はTLOは複数の民間企業によって行われているが,初期段階の技術で利益を生むのは大変困難だ.多くの場合,公的なファンディングが必要となってくる.民間企業がこのようなTLOサービスに取り組むのは良いことであると思うが,これらの企業が,TLOを効果的に実現するためには「公的資源からサポートを得る能力」が求められる.

 フィンランドの人々はTLOにおける公的サポートの重要性を十分に理解しているが,大学もTEKESもSITRAもその責任を負いたがらない.これがフィンランドのTLOシステム弱点だといえる.

 このTLOの困難さという点について,具体的にはどのような難しさがあるのかという質問に対しては,フィンランドにおける一般的なTLOのステップからみた説明を受けた.

 第一段階として,大学で生み出されたアイデア・技術は多くの場合フィンランドにおける特許となるが,これは費用も手続きもそれほど困難ではないので実現は容易である.しかし,その特許が国際的に有効に保護される期間は1年間であり,それ以降の保護にかかる費用はその科学者自身が負担しなければならないので,実際は機能しないということになる.

 だから迅速に,TLO企業がアイデア・技術を評価し,リスクをとるかどうかを判断しなければならないのだが,TLO企業は小さすぎてリスクを引き受けるだけの体力が無い.また,それぞれの領域での専門家の数も不十分である.これについてHarri
Lonnberg氏は,「個人的には国が強力なTLO企業を作り,公的資金も投入すべきだと思う」と述べている.

 また,地域との関係についてであるが,大学は国外との協力関係と地域との協力関係を同時に推進していくのは難しいと指摘しつつも,両立させることも可能であり,研究と教育の両方で国際的に認知されるようなレベルになるための努力は惜しむべきではないと述べている.

 今日ではローカル企業であっても利益を得るにはグローバルな視野を持つ必要がある.そのため,企業が海外の市場を志向するのであれば,それに協力する大学がまず国際競争力を持っていなければならない.地域に眼を向けすぎると大学は国際競争力を失ってしまうし,地域に眼を向けなさすぎるのもマイナス要因となる.しかし,この点が近年の科学政策ではあまり理解されていないようで,地域か国際化かのどちらかに偏りがちであったと指摘している.

 また,今日的な意義のある新たな基礎研究のヒントを得るための場としても地域との協力は重要であり,地域との協力が直接的・間接的にファンドの獲得の機会を増やしていることも理解すべきだとも述べている.