2008年4月4日金曜日

トゥルク・サイエンスパーク

 トゥルク・サイエンスパークではサイエンスパーク運営会社である,Turku
Science Park Ltd.の他,子会社であるBioTurku,ICTTurku,バイオ関連の企業・研究機関が集積するTurku Bio
Valleyについての説明を受けた.

 まず,Turku Science Park
Ltdであるが,同社はトゥルク・サイエンスパーク全体の運営と発展に対して責任を持ち,大学に存在する知識を基にしたビジネスを奨励・推進することをミッションとしている.オーナーはトゥルク市であるが,トゥルク市はサイエンスパークの開発に非常に熱心であり,新たな企業や人々をトゥルクに呼び込み,納税者を増やしたいと考えている.これがトゥルク市がマネージメントを行う企業に投資する理由だ.

 戦略のゴールについてであるが,Turku Science Park Ltdは営利企業ではないので,成功の基準はTurku Science Park
Ltd自身の利益で図られるわけではない.どれだけ多くのR&D投資やベンチャーキャピタルを重点開発分野(バイオとICT)に呼び込んだか,それによってどれだけ雇用が増えたかが重要であるという.

 また,トゥルク市やこの地域がハイテクの中心地であるというイメージを人々に植え付けることも戦略目標となっている.

 先にも述べたがトゥルク・サイエンスパークの重点分野はバイオとICTである.しかし,一言でバイオやICTといっても非常に広範な概念であるため,BioTurkuでは,医薬品開発,診断,バイオマテリアル,機能性食品といった特定の分野に焦点をあわせた研究開発が行われている.

 フィンランドにおけるバイオ企業の約半分がトゥルクにあり,そのほとんどがサイエンスパーク内にあるため,非常に密な集積地であるといえる.

 なぜバイオとICTなのかという点についてであるが,トゥルクには第二次大戦以前からの製薬企業も多いため,長い伝統を持つ大学の研究と企業の研究を結びつけるのがTurku
Science Parkのタスクであると捉えられているようだ.

 またICTについてであるが,この分野には約15000人の労働者が南西フィンランドにいる.14000のICT系企業のうち,約100社がサイエンスパーク内にある.ICTTurkuはこのようなICT系企業のネットワークと捉えられている.

 サイエンスパーク内外に企業は分散しているが,ICTTurkuはこのICTクラスターのコーディネートを行っている.同地域のICTにおける重点分野はソフトウェアとサービス,携帯と遠距離通信,エレクトロニクスとデバイス,コンテンツ制作である.携帯と遠距離通信,エレクトロニクスはトゥルク近郊のサロにあるノキアの存在が大きい.

 以上がTurku Science Park
Ltd,BioTurku,ICTTurkuの概要である.書くサイエンスパークと同様に,サイエンスパークの役割や存在意義,ツールといった内容についてもインタビューをすることができたので以下にまとめる.

サイエンスパークを成功させるには何が必要かというてんであるが,トゥルクでも,まず「knowledge,大学,科学」がなければならないと認識されているようであった.

 しかし,それ以上に以下の5つのものがサイエンスパークには不可欠だと説明している.

①ビジネス開発.スタートアップ企業のための様々なサービスやメカニズムである.

また技術移転,つまり大学の研究者が自ら起業することなく,アイデアを商業化するための仕組みを効率的に提供すること.

②バイオテクノロジーやICTといった重点分野の開発のための様々な開発プログラム

③マーケティングとコミュニケーション.マーケティングは外部とのコンタクト活動であり,サイエンスパークはどのような存在か,何を提供できるかを広報する行為であり,コミュニケーションはサイエンスパーク内部でのコミュニケーションである.サイエンスパーク内の協力を活発化するため,他の企業がどのような活動をしているのかを周知することであると説明している.

④インフラとサービスは,公共交通機関やデータコネクションといったハード面と消費者向けサービス・ビジネスサービスといったソフト面が日々の活動に効果をもたらす手段であり,これもサイエンスパークにとっては欠かせない要素である.

⑤施設とはつまり物理的空間である.Turku Science Park
Ltdの場合,ビルの所有者はサイエンスパーク運営会社ではない.同社はサイエンスパークの活動やビジネス開発に責任を持っているが,ビルの所有者は一部の投資家がビルの所有者となっている.

 建設会社が彼ら自身の利益とニーズに基づいてビルを建設し,リスクを負う.不動産ビジネスという意味では,エンドユーザーを引き寄せるようなビルを投資家の資金によって建設している.

 つまり,サイエンスパーク運営会社であるTurku Science Park
Ltdは,パーク内で「ソフトウェア」を提供していると言うことができる.ハードウェアは別の組織が準備したものを借り受けているのだ.

 もちろん,計画策定に当たってはトゥルク市が重要な役割を果たしている.トゥルク市はここにサイエンスパークを建設するのだという確固たる意思を持っているが,実際にハードウェアを準備するのは様々な建設会社であり,彼等は市場のニーズに基づいて建設を行っている.

 このように,施設に関してはトゥルク・サイエンスパークの役割はそれほど大きくない.この点について,オウルとの違いをたずねたところ,オウルにとっては,施設の提供は最重要項目であり,彼等の主要な関心事は賃貸料を支払う入居者の数を一定の水準に維持することにあるのに対して,トゥルクの場合は,施設の提供は第一義ではないのだが,入居率は高い水準を保っている.95%以上の入居率があり,ほとんど空きが無い状態だとの返答を受けた.

 Turuku Science
Parkに1988年に最初のビルが建てられた当初,52の企業・大学の研究ユニット・公的機関のオフィスがそのビルに入居していた.現在,その数は順調に伸びており,324の企業がサイエンスパークに存在している.

 トゥルク・サイエンスパークに移動してくる企業はセレクションを受けない.どのような企業であってもサイエンスパークに入ってくることができるようになっている.しかし,パーク内の企業・組織の数の割合は良いバランスに保たれている.バイオ・ICTが約半数を占めており,その他の技術系企業の数は少し少ないが,サービス企業が約3分の1,残りを研究教育機関が占めている.人員面殻見ると,約半数の労働者が大学と大学病院で働いている.残る半分が企業に勤めている.

 Turku Science Park
Ltdは,サイエンスパークの開発に責任を持ってはいるが,全てを同社自身の手で行っているわけではない.サイエンスパークにはバイオとICTの専門家を含む約50人が働いているが,もし我々が開発の方向性を独裁的に決定すれば間違いなく失敗するだろうと述べている.このため,トゥルク・サイエンスパークではコミュニティー全体を巻き込んで戦略策定を行っている.つまり,バイオとICTの分野で,SME・大企業・大学・公的機関のキーパーソンを集め,共同でサイエンスパークの戦略を決めていくのだ.例えば5年間というスパンのバイオ戦略では,100人以上の専門家が参加して戦略が決定された.ICTにもコミュニティーによって策定されたICT戦略というものがある.これらのコーディネートを行ったのがTurku
Science Park Ltdである.

 包括的な戦略としてはVISION2010が現行のものとなっている.同戦略ではトゥルク・サイエンスパークをバイオとICTの分野でヨーロッパ最先端のセンターにすることが目標とし,そのために多様なプログラム・プロジェクトをパートナー企業に提供する一方で,科学者や研究ユニットを誘致し,フィンランド企業・海外企業に新たな環境,競争力を持った環境を提供することを掲げている.

 Vision2010の戦略が持つゴールは,重点分野への投資を外部から呼び込むこと,雇用を創出することであり,具体的には,2010年までに5つの国際企業や研究ユニットをトゥルクに誘致することである.

 フィンランドは2010年までに世界で最も成功した3つの国に入るという目標が立てているが,これについての意見を聞いたところ,WEFやIMDのランキングでは上位に位置してきたが,重要なのは順位ではなく,国の中にあるシステムが実際に機能しているか否かという点だとの返答を得た.

 マーケティングマネージャーであるEsko
Sorakunnas氏はこれに加えて,「フィンランドには様々な特徴がある.小さい国であり,教育に力を入れており,国の経済の中でノキアが大変大きなプレゼンスを示し,GDPに占めるR&D投資の割合も高い.これらの条件がフィンランドに好ましい環境を作り上げてきたといえる.

 GDPに占めるR&D投資の割合の高さはフィンランドの成功要因の一つだ.EUの平均は2.0%を少し下回るが,フィンランドは3.5%前後であり,スウェーデンに次いで第二位だ.フィンランドはEU諸国の中で1990年代から持続的にR&D投資を増加させてきた唯一の国である.

 このように,フィンランドは研究開発に非常に力を注いできた.その結果として,特許の数などにも表れているように,国のサイズの割には大変高いパフォーマンスを示してきたといえる.フィンランドのR&D投資の約3分の2は私企業によるものであり,その半分はノキアによるものだ.

 教育システムに眼を向けてると,PISAによる調査でもフィンランドの教育への評価は高い.これらの要素を間断なく改善し続けることが今後の発展に向けて最も重要なことといえる.大きな変革は必要ないが現在の形をよりよく保つことを考えねばらない」と指摘している.

 他のサイエンスパークでも見られるように,サイエンスパークのコンセプトは様々なアクターの相互作用を重視している.例えば学生が企業に所属して研究を行いながら博士論文を執筆するケースもあるだろう.トゥルクでもそのような機会は非常に多いであろうことは容易に想像できる.ほとんど全てのビルに大学のユニットと企業の両方が入居しており,レストランなどに行っても学生とビジネスマンが昼食を同じ場所でとっている姿を見かける.サイエンスパークでは,大学と企業が別々に存在しているのではなく,mixtureな状態となっている.

 Turku Science Park Ltdはビジネス関連の様々なイベント企画することもあるのだが,Esko
Sorakunnas氏はそのような場に学生を積極的に呼び込むことも重要だと指摘する.そうすることで彼らの眼をビジネスの分野にも開かせることになる.そのような機会が無ければ学生は,「試験対策のための勉強」に追われるだけになってしまう.企業にとってもメリットは大きい.そのような機会を利用して有能な人材,必要とする人材を見つけることができるからだ.

 以上がTurku Science Park Ltdでのインタビュー概要である.

トゥルクでは主にバイオ関連の調査を多く行った.フィンランドのバイオ産業におけるトゥルクのプレゼンスが非常に高いためであるが,この背景には歴史的経緯がある.プロジェクトマネージャーHanna
Halme氏の説明を要約しておく.

 Turku Bio Valley
Ltdは1999年にできたのだが,それ以前から多くのバイオ関連企業がトゥルクにはあった.オリオンやレイラスといったバイオ企業が企業間協力,企業-大学間強力を持っていたので,徐々にサイエンスパークのようなフレームワークへのニーズが高まっていったのだ.

 つまり,トゥルク・サイエンスパークはボトムアップの形で成立したのだといえる.トップダウン的にサイエンスパークをまず最初に作って,その中で何をすべきかを議論するという順番ではない.この経緯はその後の戦略策定においても大きな影響を与えている.

 こういった経緯からトゥルクでは主にバイオ関連クラスターの調査が中心となっている.そこでTurku Scicence Park
Ltdの傘下にあるBioTurku Ltdでのインタビュー概要も紹介しておく.